Corporate 2024.06.27

一番のリスクは成長が止まること リスクマネジメント室が目指す「Nextスタンダード」とは?

現代のビジネス環境において、企業の成長を妨げずにリスクを管理することは重要な課題です。今回は、BEENOSのリスクマネジメント室の責任者である大槻さんに、リスクマネジメントの役割や大切にしていること、そしてリスクマネジメント室におけるNEXTスタンダードについてお話を伺いました。


ーリスクマネジメント室が担っている役割を教えてください

大槻:
リスクマネジメント室が担う役割としては、大きく2つあると思っています。
1つ目は経営陣や従業員がリスクをちゃんと認識した上で最適な判断をするサポートをすること。もう1つが有事の際にも落ち着いて対応できるように準備をすることです。
実際には、最近ニュース等で取りあげられることの多い、情報セキュリティ事故や自然災害を想定し、課題を整理し対策を検討したり、投資家が適切に当社の価値判断をできるように効率的に財務報告の作成ができる仕組みの整備などを行っています。粒度も階層にあわせて経営陣には全社レベルで、幹部社員や従業員の皆さんとは業務プロセスレベルで、一緒にリスクの評価を行い、最適な対応策を整備し改善検討を推進しています。
お金も時間も無限に使うことができるものではありません。関係者と話し合いながら、それほど無理せずにできる、良いバランスのリスク対応を提案するのが我々の仕事です。


ールールで縛り付けることもできますが、それが本当に良いのかという問題がありますね。厳しいルールにより仕事がしづらくなることもあります。そういった考えをもとに、リスクマネジメントを行い、内部統制やセキュリティに取り組んでいるということですね。

大槻:
そうですね。当社グループの経営陣や従業員は好奇心旺盛で、日々新しい取組みを検討しています。そんな中でガチガチに固めたルールを導入しても、あっという間に商流にあわなくなり誰にも守ってもらえなくなってしまいます。それならば、ルールは皆が納得できる内容、かつ、皆が判断に迷うポイントに絞って整理し、あとは関係者と話し合いながら個別具体的に対応検討したほうが、本音で話すことができる機会が増え、関係者間だけでは気づいていなかったようなリスクを認識してもらうことができるので良いと思っています。

ー事業として応援したい気持ちもありますが、一方で、このリスクはさすがにとることができないということもあると思います。ある種、柔軟に対応しつつも、ここは線引きが必要だというポイントが出てくるのだろうと、話を聞きながら感じました。

大槻:
事業が成長したとしても、その先にいるお客様や投資家の方々にどのような影響があるか、その可能性を見据えておかないと辛いですよね。短期的には良く見えても、最終的にどの程度のリスクが膨らむかを見極めることが重要だと思います。例えば、非常に重要な取引先がいたとして、その取引先が当社に重大な影響を与えるかもしれないことを求めてきて、この求めを断るとその取引先を失うかもしれないという、ビジネス的に厳しい状況になることがあったとします。この取引先の担当者の気持ちを考えるとなんとか求めに応えてあげたい気持ちもありますが、担当者に私たちが考えるリスクを丁寧に伝え、一緒に当社のリスクを減らす方法を検討し提案することも私たちの仕事です。
何か問題が発生した場合に、関係者にどのような影響を与えるのかを考え、一旦自分自身で考えを整理し上司やリスクマネジメント室に相談する流れを作ることができれば、そのルールは活きている必要十分なルールだと思います。

ー災害トレーニング対策センター(DMTC)が実施している、災害時の初動対応訓練に参加されたと伺いました。大槻さんはなぜこの取り組みに参加され、社内で共有しようと思ったのか、教えていただけますか

大槻:
会社の事業成長においては、人が非常に重要な要素です。事業を成長させるために会社の事業を止めるわけにはいきません。そんな時に、何を優先すべきかという問いに対して、「人命が最優先」という視点を見失うことが一番危険です。その重要性を体感してもらうこと、災害が発生したときの大切なこと、例えば簡潔明瞭に指示を出すなどの重要性を実感してもらうために、実際に取り組んできた人が話すことが重要だと思い、訓練に参加し社内で共有しました。例えば下の画像は社内共有したスライドの一部ですが、このようなシチュエーションで私は現場指揮班として参加したのですが、頭で理解していたことも実際の現場環境下では役割を的確かつ迅速に進めていく難しさを知りました。経験を言語化することで記録にもなりますし、共有される側も具体的なイメージが湧くと思います。
ー大槻さん個人として仕事をする上で何か意識されていることはありますか?

大槻:
3つあります。1つ目が『その仕事の目的をちゃんと固めてしまうこと』2つ目が『一緒に仕事をする人の考え方を理解し、その考え方に沿って悩みを整理すること』最後が『相談してくれる人に安心感を与えること』とですね。

私の仕事の半分は、前触れなく連絡が入り、かつ、可及的速やかに対応しなければなりません。こういうときは迅速に状況把握し最短ルートでゴールまで走り切らないとなりませんが、関係者はネガティブな情報で思考停止状態になっていることがあります。そんなときにこの3つを意識しヒアリングや課題整理するとうまくいくことが多いので、私は心掛けるようにしています。

ーリスクマネジメントを行うにあたり必要なスキルや特性はどのように高められたのですか

大槻:
会計、IT、労務の基礎知識は入手した情報から現状把握したり仮説検証を行う際に必要です。ヒアリングを行う際にもある程度の基礎知識がないと、リスクの本質にたどり着くまでにムダに時間がかかってしまいますのでコミュニケーション上も共通言語として必須だと思っています。私は前職で監査部門以外に経理部門や情報システム部門も経験し、当社に入社した後に労務部門に関わる機会もあり、実務等を通じて基礎スキルを得ることができました。しかし、最近より重要なのは『ストレス耐性』だと感じています。

当社のリスクマネジメント室の役割は予防的側面だけでなく、発生してしまった危機への対処の側面もあります。危機への対処は『待ったなし』なので、正確かわからない情報が錯綜する中で迅速に覚悟を持って対応しなければならない状況に迫られることもあります。その際に発生頻度は低い場合でも、万が一に備えてどれだけ対応シナリオを想定しておくことができるか?だと思っていて、とにかく本を読んだり、社外の専門家と情報交換したりしつつ、自分の中で対応シナリオを蓄積しています。この取り組みが有事の際に自分自身が混乱し思考停止にならないようになってきた理由のひとつだと感じています。

ー大槻さんが感じるリスクマネジメントの面白みややりがいについて教えていただけますか

大槻:
正解がひとつではないところですね。リスクのとり方次第で正解も変わると思っています。なぜそのリスクのとり方が妥当と思ったのか、対応策が最適と考えたのか等を経営陣や従業員と意見交換し方針を固めていかねばなりません。他のコーポレート部門に比べると実は各種法律に基づいて判断できるものは少なく、自分の今までの経験のほうが法律等より重要だったりします。結構しびれますがやりがいはあります。

また、リスクマネジメントは引き出しが多いことが特に強みになる業務だと思っています。私は監査部門、経理部門、情報システム部門のスペシャリストではありませんが、当室ではその様々な部門で積んだ経験が有機的につながって活用できています。私は当社に入社してから本格的に災害対策業務を担当するようになりましたが、日々自分の引き出しが増えていく面白みを感じています。他社のリスクマネジメント担当者の中には私よりも更に経験豊富な方も多くいるので刺激になってます。

ー大槻さんがBEENOSに入社した経緯を教えてください

大槻:
理由は2つあります。
1つ目が、変革の過渡期だった点です。私が入社した2013年は祖業のネットプライスの業績があまり芳しくない状態でした。しかし、経営陣や幹部社員が現状を受け入れつつも思考停止せずに変革に前向きな組織と感じたことです。面接してくれた方々からは何とかしなきゃという気概を感じましたし、グループ事業の中には変わる火種も感じました。これなら現状から脱皮するために仕組みの再構築が部分的に発生しているだろうし、そのためにリスクの評価と対応方針も再検討しなければならないはずです。私の経験したことのない業務に触れる機会もたくさんありそうだし、前職までに変革の過渡期で生じるバタバタを再整備してきた経験をBEENOSで発揮できると思ったためです。

2つ目が、当時の上司が良い意味で「内部監査人っぽくなかった」点です。当時私は内部統制を構築し評価することがミッションの募集枠に応募しました。一般的にルールに基づいて業務が遂行できているか?を監査したり、監査法人の下請け業務を実施する人が多い中、ちゃんと自分たちの目指す内部統制・内部監査を考えている方でした。結果、内部監査部門が事業部門と良いコミュニケーションがとれている気がしたことです。私は決まり事に従って粛々とチェックしていくような業務をするつもりはなく、監査等はあくまで本当に優先して対応しなきゃならない課題の整理の手法だと思っています。内部監査部門が会社のために機能していて、この会社は大丈夫!楽しめる!と感じたためです。

ーリスクマネジメント室が目指す「Next Standard」を聞いてもいいですか?

大槻:
スピード感をあげていきたいと考えています。そのためには経営陣や幹部社員とリスク感度を揃えることが近道だと思います。経営陣や幹部社員が何を基準にリスクを評価し対応策を検討しているのかを私が整理し、常に最適な基準で認識が揃っている状態を目指したいです。

極論を言えば、リスクマネジメント室のメンバーにはリスク感度において社長の直井さんや他の役員陣と同じレベルが必要です。例えば、直井さんがどう考えるかを想像し、だからこそこのタイミングでこの論点は整理し報告しなければならない、次のアクションを起こすためには最短でこれとこれを準備する必要がある、といったことを具体的にイメージできることが重要です。

そのために、リスクマネジメントの役割を果たすためには、各種リスクに対し経営陣や幹部社員と同じレベルもしくはそれ以上のレベルで話し合えるような人材を増やす必要があります。一番のリスクは成長が止まることです。経営陣や幹部社員と阿吽の呼吸で迅速に行動できるようなメンバーの集合体にしたいですね。

ー今後の展望があれば教えてください。

大槻:
リスクへの感度はリスクマネジメント室のメンバーを経営陣や幹部社員と同じ目線まで上げたいとお話させてもらいましたが、同時に一緒に働く従業員の皆さんの目線も挙げていかねばならないと思っています。それが実現できれば、BEENOSグループ全体がもっと迅速かつ効率的に仕事ができる集団になると思います。そこまでくれば、リスクマネジメント室の日々の業務はかなり減らせるので、専任担当者は社員の皆さんがどうしても判断に迷うような専門性の高い事案に対応する熟練した社員だけに絞り、後は基本兼任の体制に移行できると思います。そうなると、リスクマネジメント室には誰が在籍しているかも普通に仕事をしていると気にならないし、もしかしたら知る機会もないようになるかもしれません。

私はリスクマネジメント室は表立って動いているように見えず、一大事には存在価値を発揮できる部署であることが重要だと考えています。そのためはBEENOSグループの皆さんは、世の中の動きの変化に敏感に反応し、事業を成長させるために生じる課題に対して関係する全員が自分が解決しなければならないという強い意識を持って課題に取組み、リスクマネジメント室担当者は、その集団にうまく溶け込み、適時適切な提案ができるようになる必要がある思います。BEENOSの皆さんはそういうことを楽しみながら実現できる人の集まりだと思っています。私はBEENOSがこれからも成長を続けることができるように、引き続き尽力していきたいと思います。

ーありがとうございました。