Corporate
2023.10.25
人事戦略室 事業を担う人材を育てる第一歩 新入社員研修の工夫と狙い

2023年の新入社員17名が参加し、最終段階では新規事業の立案をボードメンバーに行う内容となった新入社員研修。CHROの宮坂と人事戦略室で新卒の育成を担当する人見にその目的と構成、工夫した点などを聞きました。
―人事戦略室のミッションを教えてください
宮坂:採用や育成など多岐にわたる手法を通じて「事業成長を加速させる・支える、強い組織・人材を経営陣と現場とともに作っていく」ことが人事戦略室のミッションです。世の中には人的資本経営やフレームワークが存在していますが、これはあくまで他人が決めた指標なので、きちんと読み解いて自分たちの会社にどう活きるかを判断しなくてはいけません。例えば全社的に一つの人事施策を始めるとなったときに、ある部署には効果があるけど別の部署にはマッチしないということもありえます。これには組織の成熟度だけではなく、事業の難易度やそこで働くメンバーなどによって変わる部分があると思います。事業成長を加速させるというと速く走るということになりますが、支える要素も必要になってきます。部署や事業によって手法は異なる部分がありますが、強い組織や人材を作っていくことというのは、実は普遍的で変わらない中核なんです。そしてこれを実現していくためには人事だけが動くのではなくて経営陣と現場と一緒に作っていく必要があります。お互い納得感をもって一緒に進めていかなくてはならない部分ですね。場合によっては人事から「こういう人を採用したほうがいい」、「こういう採用戦略を取ったほうがいい」など助言することもありますが、やはり現場が腑に落ちなければ良い活動にはなりません。ときには経営陣や現場とぶつかり合って議論をしながら実現していくことも必要だと思います。BEENOSが掲げる行動指針「8つのDos」に「オープントーク」という言葉がありますが、しっかりと向き合って物事を進めていくという姿勢がこめられています。

CHROの宮坂(左)と人事戦略室の人見(右)
―新卒研修の内容のご紹介をお願いします
宮坂:当社ではエンジニア職もビジネス職も4月1日の入社式以降、2か月間共通の新入社員研修を行っています。新入社員向けでよくある電話応対や会議の通し方などのビジネスマナーに始まり、BEENOSという会社・人・組織・ルールの理解やSQLの習得、ロジカルシンキングなどの各種スキルを学ぶこと、自分や仲間を知るためのマインドセット研修などを行い、最終的にはこれらの研修内容を生かして新規事業の立案を役員に対してプレゼンを行います。
これらの研修ではインプットだけでなく、アウトプットの機会を意識的に設けています。また、自分や仲間を知るための時間を多くとっています。入社してからは会社や外部のことを知ることに時間の多くが割かれることになりそれだけでいっぱいになってしまいます。そのため新しい刺激に触れて自分自身がどう変化しているか、どう感じたかなど自分自身と改めて向き合ってみて、これから自分がどうなっていきたいかというキャリアプランについて考える時間が必要と考えて3日間を充てています。
研修はどうしても受け身になりがちなので、様々なことを伝えても聞いたことはあるけれど理解には至っていないという状態に陥ることが多々あります。そういった部分を改善するために、インプットのあとにディスカッションを行います。インプット後にすぐアウトプットすることで理解が深まります。同じ話を聞いても隣にいる人は全然違う捉え方をしていることもあるので、ディスカッションをすることでそういった考え方もあるんだと気づくことが出来ます。これが仕事における疑似体験になっているんです。
考え方の違いは多様性の一つですが、今の新卒の人たちはコロナ禍によってその多様性に触れる機会を奪われてきました。例えば留学して自分とは違う価値観に触れたいと思ってもかなわないこともあったわけです。考え方の違いといった多様性に触れるオープンな会話の場を作ることを意識して、一つ一つの研修に対してインプットとアウトプットを繰り返す構造にしています。最初は新卒メンバー間でアウトプットして、最終的には役員に対してアウトプットする場を設けるという形です。
まずはキャリアプランについて考えて自分自身を振り返り、自分がどういう人間でこれからどんなことをしていきたいのか、1人5分くらいにまとめて役員にプレゼンを行います。これは良いプレゼンを行うことが目的ではなく、自分のことを内省してテキスト化し、それを役員や人前で発表するという体験自体が重要だと考えています。入社後は様々なインプットを経てみんな変わっていくと思いますが、1年2年と経ったときに当時はこんなことを考えていたなと、自分のベースを振り返ることが出来るものになっていると思います。
研修の後半戦も今年は新規事業の企画をテーマとした内容にしました。エンジニア職とビジネス職でペアを組み、メンターを付けて役員の前でプレゼンするというものです。もちろんいきなり新規事業計画を作ってみても精度の高いものが出来上がるわけではないのですが、これもこれからの業務における疑似体験になると思っています。
-内省に始まり最後は役員向けの新規事業の企画プレゼンと、入社早々頑張りどころです
宮坂:新入社員の採用は入社して5年後には事業を任せられる人材になることを見越して育てたいと思っています。BEENOSには様々な事業会社がありますが、新入社員はグループを横断しやすいし横のつながりとして同期もいます。それらを有機的につなげて新しいものを生み出してほしいんです。事業を任せられる人を育てていくというのが新卒採用の中長期のゴールです。入社後5年たったらエンジニア職とビジネス職が一緒に事業のトップに立って一緒に仕事をする未来があるので、その体験を先行して疑似体験するということですね。
ただこういった新規事業の企画はまったくのゼロベースからは作れないので研修の中で基礎部分を学んでもらっています。ロジカルシンキングの研修では目的から逆算して考えて分解してなんのために施策をするのかを数字で表すことを学ぶほか、アウトプットとしてプレゼンテーションも経験します。事業を行う場合にデータベースから数字を抽出する段階ではSQL研修を通じて実際に操作し、どんな国でどんな商品が購入されているかを調べたりします。こうした研修を「武器」として渡して新規事業を企画してもらいます。今回は明確な目的をもち密な場を作っていくことに注力してほぼフルスクラッチで研修を構成しました。外注しているのはマナー研修くらいで、それ以外は人事戦略室で体系立てて作りこみました。
―新卒研修のゴールイメージは5年後の事業責任者なんですね
宮坂:そうですね。もちろん全員が事業責任者にならなくてはいけないという意味ではなく、会社の中核となる人材、中心になって引っ張って行く人材を育てたいと思っています。ITのサービスはどんどん新しくなりマーケットも変化します。今バイイングパワーがあるのは40,50代の層ですが、10年先20年先は主要な層は変わっていくと思います。スマホネイティブでSNSが当たり前の中で育ってきた人たちが中心のマーケットの時代が来るんです。例えばSNSを活用した施策を通したいとなったときに、SNS自体の説明をするところから始めなくてはいけないのでは時間がかかりすぎるでしょう。このスピード感の遅さはIT企業にとっては致命的になりえます。IT企業の経営者は新しいものに触れることが求められるのはもちろんですが、マーケットのど真ん中にいてそれらのサービスを体感している人材も必要になってきます。マーケットの方向性によって必要な人材に投資していくことが重要です。もちろん僕ら40,50代の層や中途入社の社員も頑張りますよ。それでも多様なITサービスが生まれている中でそれらをど真ん中の世代として体感している層はやはり強いと思います。若手の成長はスキルや能力を育てる環境があるかどうかにかかっています。当社が新規事業に一定金額を投資しているのと同じで、人材開発でも未来のマーケットに対して僕らが本気で投資していく必要があります。自分たちが実現したい事業に刺さる人材をどう育てていくか。目標は社長である直井さんのような人材の創出です。新規事業の立ち上げや様々な部署の経験を若手にもさせたいと思っています。もし失敗したとしても、短時間で濃密にコミットすることに意味があります。
―この研修の中で特に工夫したのはどんな点ですか
宮坂:研修を実施する側が目的意識をしっかりと持つこと、目的を受ける側にもしっかりと伝えることはいろいろと工夫しました。研修の情報量が多すぎると受ける側が消化しきれません。そこを打開するためにインプットとアウトプットの場を盛り込んだわけです。ただ研修を受けるだけではなく自分自身で発信する点がポイントです。インプットとアウトプットを研修の各メニューに盛り込んで実践していくと途中から指示されなくても自分たちでディスカッションをするようになりました。新卒同士で意見を言い合える関係性が出来たというのは新卒研修のもう一つの目的である横のつながりを体験できたのではないかと思います。当社は風通しがいいほうだと感じていますが、もっとよくしていきたいですね。お互いにオープンにしあう環境づくりは意識しています。
人見:実務担当としては一つ一つの研修に明確な目的をつくり、最終ゴールの新規事業立案にいかに繋ぐかという部分まで線としてつながるように工夫しました。また、その線の延長にそれぞれの配属先や技術研修に入っていけることを意図して企画しています。
また、新入社員のオンボーディングのサポートにもきちんと入り込めるように注力しています。2か月にわたる研修期間、極力同席しています。それにより自分たちが担当していない研修に関しても状況を把握することができ、どこが足りていないのかという状況を都度判断することが出来ました。例えば新規事業を企画する研修で足りない部分や現場に入っていくときにもう少し伸ばしたほうがいいなという部分を柔軟に研修内容に適応し変化させていました。あとは繰り返しになりますが、とにかくアウトプットを意識してもらうことを重視しました。知識はアウトプットしないと知識でしかなく薄れていってしまいます。アウトプットすることによって自分の中にきちんと落とし込むことを目的としています。特に脳に汗をかくことは強く意識していました。役員への新規事業の立案・プレゼンというシーンでは相当のプレッシャーが新入社員にかかったと思います。役員も真剣に向き合っていますので、プレゼンに対して次々と新入社員へ鋭い質問が飛んできます。これは将来のBEENOSの中枢を担うメンバーの一人としてしっかりと対峙しているということなんです。そういった場面で脳に汗をかくことが出来たのではないかと思います。
宮坂:アイデアの壁打ちなどの場面では足りていない部分の指摘などを適切なタイミングで行うように心がけましたね。仕事をするうえではこれから様々な指摘を受ける機会は増えていきますのでそういった状況に慣れるための布石でもあります。
人見:そうですね。新入社員は実際のビジネスシーンにおける相手との対峙の仕方は経験していない部分ですので、そこは高めたいと考えていました。どこまで伝えてどのタイミングで指摘するかという点は注意深く対応しました。
―研修についてBEENOSならではのポイントを教えてください
人見:大きな特徴としてはボードメンバー含め、執行役員以上が研修に総動員されている点が挙げられると思います。東証プライムに上場している企業の代表が新卒研修に何度も顔を出すというのはなかなかないのではないでしょうか。やはり会社として新卒に対する期待があり、自身の経験を新入社員に伝えることで気づきを得てほしいという風潮はボードメンバーにはすごくあると思います。直井社長は4回ほど顔を出してくれています。
このほか「自分を知る・仲間を知る」という部分には力を入れています。例えば、近しい体験をして成長している先輩社員を研修にアサインし、プレゼンしてもらうことで、新入社員には「将来こういった人になれるかもしれない」とイメージできるようにしました。
宮坂:キャリアプランを考える研修もBEENOSほど細かくはやっているとところは多くないと感じています。BEENOSでは内省して人生のモチベーショングラフを書くところから始めます。過去と現在、未来はつながっているのでいきなり未来のことを書けと言っても書けないんです。そこで過去を解きほぐして、自分がどんな時にモチベーションが上がったか、どんな時に苦しかったかを2,3日かけてひも解いていく。そして最後にキャリアプランに落とし込む。キャリアにおけるスタンスとポータブルスキル、テクニカルスキルみたいな感じです。
人見:あとは一般的ではないかもしれませんが、僕たちの失敗について伝えることも重視しています。研修の中では綺麗な話や僕たちの成長について話を伝える一方で、こんな失敗をしてきたとか失敗からこういうことを学んできたということを伝えていました。会社で活躍する先輩社員の入江さんは自ら「講師をして伝えたい」と手を挙げてくれました。こういった主体的な動きというのもBEENOSならではと感じます。講師になってくれたほかの社員もぜひ話したい!という人ばかりでこういう空気感がBEENOSの特徴だと思います。

―受講者の反応はいかがだったでしょうか
人見:研修は全員で17人の新入社員に受けてもらっていて、総じて研修に満足しているというアンケート結果になりました。全体的には社員とのコミュニケーションや懇親の量も十分だったと感じてもらっています。次の新卒に受けてほしい研修などもアンケートを取っているので次回に活かしたいと考えています。研修の内容が大変好評で「こういった研修をしていることをもっと発信したほうがいい、入社前に知りたかった」と言われたことは素直に嬉しかったです。
―研修に関わる講師の社員はどんな方たちですか
人見:研修に関わっている社員は全員、事業の第一線で活躍しているプロフェッショナルです。当社のトップランナーを総動員して研修にあたっています。たとえば、事業理解の研修では各社の社長やディビジョンのトップが会社の説明や質疑応答にあたりました。スキル研修プログラムで財務諸表の読み方には執行役員でCFCOの松田さん、企画書の書き方は常務執行役員CBOの笠松さん、韓国事業責任者の柳さん、ロジカルシンキング研修は事業戦略推進室室長でCSOの三浦さん、笠松さん、執行役員でCHROの宮坂さんが担当されています。マインドセット研修とキャリアビジョン研修ではボードメンバー全員と配属の可能性のある部署の執行役員も参加しました。最終的な新規事業企画の研修ではメンターで各社のディビジョン長のほか、多くの幹部クラスが参加しました。プレゼンにはボードメンバーをはじめ、執行役員や社長クラスの方みなさんにご参加いただきました。プレゼンテーションと質疑応答を通じて、質問を想定した事前の準備が必要だということも分かってもらえたと思います。役員が一人の社会人として真剣に向き合うことで、新入社員も会社が本気で取り組んでいることを感じたのではないでしょうか。
―研修を終えての感想を教えてください
宮坂:BEENOSの事業は少し特殊なので、色々トライしていく中でどんどん変わっていっています。研修も同様にどんどん様々なチャレンジをして今まで変化してきました。今年の研修はその集大成となったと思います。ブラッシュアップできる余地はまだありますが、大枠のフレーム部分は今後も活用していける形に仕上がりました。
人見:そうですね。完璧とはまだ言えませんが、この研修を受けることによってしっかりと地に足を付けてやってくれるメンバーとして配属先やジョブローテーションや技術研修といった場面に向かわせてあげられたのではないかと思います。
宮坂:人事メンバーもそうとうの時間数を研修に注いでいます。人材採用も投資なので中途半端にやってもうまくいきません。なんとなく打席に立ってなんとなくするスイングではバットに球は当たりません。なんとなく失敗したら失敗の原因も良くわからない。どうせやるなら前のめりにフルスイングするべきなんです。僕たちは本気で事業を作りに行っているので、人材も本気で採用しなくてはいけません。本気の姿勢を見せれば若い人もそこに応えてくれるので、本気で取り組むことの重要性を改めて学びました。
―ありがとうございました。
ミッションは強い組織・人材をつくること
―人事戦略室のミッションを教えてください
宮坂:採用や育成など多岐にわたる手法を通じて「事業成長を加速させる・支える、強い組織・人材を経営陣と現場とともに作っていく」ことが人事戦略室のミッションです。世の中には人的資本経営やフレームワークが存在していますが、これはあくまで他人が決めた指標なので、きちんと読み解いて自分たちの会社にどう活きるかを判断しなくてはいけません。例えば全社的に一つの人事施策を始めるとなったときに、ある部署には効果があるけど別の部署にはマッチしないということもありえます。これには組織の成熟度だけではなく、事業の難易度やそこで働くメンバーなどによって変わる部分があると思います。事業成長を加速させるというと速く走るということになりますが、支える要素も必要になってきます。部署や事業によって手法は異なる部分がありますが、強い組織や人材を作っていくことというのは、実は普遍的で変わらない中核なんです。そしてこれを実現していくためには人事だけが動くのではなくて経営陣と現場と一緒に作っていく必要があります。お互い納得感をもって一緒に進めていかなくてはならない部分ですね。場合によっては人事から「こういう人を採用したほうがいい」、「こういう採用戦略を取ったほうがいい」など助言することもありますが、やはり現場が腑に落ちなければ良い活動にはなりません。ときには経営陣や現場とぶつかり合って議論をしながら実現していくことも必要だと思います。BEENOSが掲げる行動指針「8つのDos」に「オープントーク」という言葉がありますが、しっかりと向き合って物事を進めていくという姿勢がこめられています。

CHROの宮坂(左)と人事戦略室の人見(右)
アウトプットの機会を設けて理解度の向上を促進
―新卒研修の内容のご紹介をお願いします
宮坂:当社ではエンジニア職もビジネス職も4月1日の入社式以降、2か月間共通の新入社員研修を行っています。新入社員向けでよくある電話応対や会議の通し方などのビジネスマナーに始まり、BEENOSという会社・人・組織・ルールの理解やSQLの習得、ロジカルシンキングなどの各種スキルを学ぶこと、自分や仲間を知るためのマインドセット研修などを行い、最終的にはこれらの研修内容を生かして新規事業の立案を役員に対してプレゼンを行います。
これらの研修ではインプットだけでなく、アウトプットの機会を意識的に設けています。また、自分や仲間を知るための時間を多くとっています。入社してからは会社や外部のことを知ることに時間の多くが割かれることになりそれだけでいっぱいになってしまいます。そのため新しい刺激に触れて自分自身がどう変化しているか、どう感じたかなど自分自身と改めて向き合ってみて、これから自分がどうなっていきたいかというキャリアプランについて考える時間が必要と考えて3日間を充てています。
研修はどうしても受け身になりがちなので、様々なことを伝えても聞いたことはあるけれど理解には至っていないという状態に陥ることが多々あります。そういった部分を改善するために、インプットのあとにディスカッションを行います。インプット後にすぐアウトプットすることで理解が深まります。同じ話を聞いても隣にいる人は全然違う捉え方をしていることもあるので、ディスカッションをすることでそういった考え方もあるんだと気づくことが出来ます。これが仕事における疑似体験になっているんです。
考え方の違いは多様性の一つですが、今の新卒の人たちはコロナ禍によってその多様性に触れる機会を奪われてきました。例えば留学して自分とは違う価値観に触れたいと思ってもかなわないこともあったわけです。考え方の違いといった多様性に触れるオープンな会話の場を作ることを意識して、一つ一つの研修に対してインプットとアウトプットを繰り返す構造にしています。最初は新卒メンバー間でアウトプットして、最終的には役員に対してアウトプットする場を設けるという形です。
まずはキャリアプランについて考えて自分自身を振り返り、自分がどういう人間でこれからどんなことをしていきたいのか、1人5分くらいにまとめて役員にプレゼンを行います。これは良いプレゼンを行うことが目的ではなく、自分のことを内省してテキスト化し、それを役員や人前で発表するという体験自体が重要だと考えています。入社後は様々なインプットを経てみんな変わっていくと思いますが、1年2年と経ったときに当時はこんなことを考えていたなと、自分のベースを振り返ることが出来るものになっていると思います。
研修の後半戦も今年は新規事業の企画をテーマとした内容にしました。エンジニア職とビジネス職でペアを組み、メンターを付けて役員の前でプレゼンするというものです。もちろんいきなり新規事業計画を作ってみても精度の高いものが出来上がるわけではないのですが、これもこれからの業務における疑似体験になると思っています。
-内省に始まり最後は役員向けの新規事業の企画プレゼンと、入社早々頑張りどころです
宮坂:新入社員の採用は入社して5年後には事業を任せられる人材になることを見越して育てたいと思っています。BEENOSには様々な事業会社がありますが、新入社員はグループを横断しやすいし横のつながりとして同期もいます。それらを有機的につなげて新しいものを生み出してほしいんです。事業を任せられる人を育てていくというのが新卒採用の中長期のゴールです。入社後5年たったらエンジニア職とビジネス職が一緒に事業のトップに立って一緒に仕事をする未来があるので、その体験を先行して疑似体験するということですね。
ただこういった新規事業の企画はまったくのゼロベースからは作れないので研修の中で基礎部分を学んでもらっています。ロジカルシンキングの研修では目的から逆算して考えて分解してなんのために施策をするのかを数字で表すことを学ぶほか、アウトプットとしてプレゼンテーションも経験します。事業を行う場合にデータベースから数字を抽出する段階ではSQL研修を通じて実際に操作し、どんな国でどんな商品が購入されているかを調べたりします。こうした研修を「武器」として渡して新規事業を企画してもらいます。今回は明確な目的をもち密な場を作っていくことに注力してほぼフルスクラッチで研修を構成しました。外注しているのはマナー研修くらいで、それ以外は人事戦略室で体系立てて作りこみました。

マーケットの中心となっていく若手人材に本気の投資をしていく
―新卒研修のゴールイメージは5年後の事業責任者なんですね
宮坂:そうですね。もちろん全員が事業責任者にならなくてはいけないという意味ではなく、会社の中核となる人材、中心になって引っ張って行く人材を育てたいと思っています。ITのサービスはどんどん新しくなりマーケットも変化します。今バイイングパワーがあるのは40,50代の層ですが、10年先20年先は主要な層は変わっていくと思います。スマホネイティブでSNSが当たり前の中で育ってきた人たちが中心のマーケットの時代が来るんです。例えばSNSを活用した施策を通したいとなったときに、SNS自体の説明をするところから始めなくてはいけないのでは時間がかかりすぎるでしょう。このスピード感の遅さはIT企業にとっては致命的になりえます。IT企業の経営者は新しいものに触れることが求められるのはもちろんですが、マーケットのど真ん中にいてそれらのサービスを体感している人材も必要になってきます。マーケットの方向性によって必要な人材に投資していくことが重要です。もちろん僕ら40,50代の層や中途入社の社員も頑張りますよ。それでも多様なITサービスが生まれている中でそれらをど真ん中の世代として体感している層はやはり強いと思います。若手の成長はスキルや能力を育てる環境があるかどうかにかかっています。当社が新規事業に一定金額を投資しているのと同じで、人材開発でも未来のマーケットに対して僕らが本気で投資していく必要があります。自分たちが実現したい事業に刺さる人材をどう育てていくか。目標は社長である直井さんのような人材の創出です。新規事業の立ち上げや様々な部署の経験を若手にもさせたいと思っています。もし失敗したとしても、短時間で濃密にコミットすることに意味があります。

目的意識を持った研修で脳に汗をかいてもらう
―この研修の中で特に工夫したのはどんな点ですか
宮坂:研修を実施する側が目的意識をしっかりと持つこと、目的を受ける側にもしっかりと伝えることはいろいろと工夫しました。研修の情報量が多すぎると受ける側が消化しきれません。そこを打開するためにインプットとアウトプットの場を盛り込んだわけです。ただ研修を受けるだけではなく自分自身で発信する点がポイントです。インプットとアウトプットを研修の各メニューに盛り込んで実践していくと途中から指示されなくても自分たちでディスカッションをするようになりました。新卒同士で意見を言い合える関係性が出来たというのは新卒研修のもう一つの目的である横のつながりを体験できたのではないかと思います。当社は風通しがいいほうだと感じていますが、もっとよくしていきたいですね。お互いにオープンにしあう環境づくりは意識しています。
人見:実務担当としては一つ一つの研修に明確な目的をつくり、最終ゴールの新規事業立案にいかに繋ぐかという部分まで線としてつながるように工夫しました。また、その線の延長にそれぞれの配属先や技術研修に入っていけることを意図して企画しています。
また、新入社員のオンボーディングのサポートにもきちんと入り込めるように注力しています。2か月にわたる研修期間、極力同席しています。それにより自分たちが担当していない研修に関しても状況を把握することができ、どこが足りていないのかという状況を都度判断することが出来ました。例えば新規事業を企画する研修で足りない部分や現場に入っていくときにもう少し伸ばしたほうがいいなという部分を柔軟に研修内容に適応し変化させていました。あとは繰り返しになりますが、とにかくアウトプットを意識してもらうことを重視しました。知識はアウトプットしないと知識でしかなく薄れていってしまいます。アウトプットすることによって自分の中にきちんと落とし込むことを目的としています。特に脳に汗をかくことは強く意識していました。役員への新規事業の立案・プレゼンというシーンでは相当のプレッシャーが新入社員にかかったと思います。役員も真剣に向き合っていますので、プレゼンに対して次々と新入社員へ鋭い質問が飛んできます。これは将来のBEENOSの中枢を担うメンバーの一人としてしっかりと対峙しているということなんです。そういった場面で脳に汗をかくことが出来たのではないかと思います。
宮坂:アイデアの壁打ちなどの場面では足りていない部分の指摘などを適切なタイミングで行うように心がけましたね。仕事をするうえではこれから様々な指摘を受ける機会は増えていきますのでそういった状況に慣れるための布石でもあります。
人見:そうですね。新入社員は実際のビジネスシーンにおける相手との対峙の仕方は経験していない部分ですので、そこは高めたいと考えていました。どこまで伝えてどのタイミングで指摘するかという点は注意深く対応しました。
―研修についてBEENOSならではのポイントを教えてください
人見:大きな特徴としてはボードメンバー含め、執行役員以上が研修に総動員されている点が挙げられると思います。東証プライムに上場している企業の代表が新卒研修に何度も顔を出すというのはなかなかないのではないでしょうか。やはり会社として新卒に対する期待があり、自身の経験を新入社員に伝えることで気づきを得てほしいという風潮はボードメンバーにはすごくあると思います。直井社長は4回ほど顔を出してくれています。
このほか「自分を知る・仲間を知る」という部分には力を入れています。例えば、近しい体験をして成長している先輩社員を研修にアサインし、プレゼンしてもらうことで、新入社員には「将来こういった人になれるかもしれない」とイメージできるようにしました。
宮坂:キャリアプランを考える研修もBEENOSほど細かくはやっているとところは多くないと感じています。BEENOSでは内省して人生のモチベーショングラフを書くところから始めます。過去と現在、未来はつながっているのでいきなり未来のことを書けと言っても書けないんです。そこで過去を解きほぐして、自分がどんな時にモチベーションが上がったか、どんな時に苦しかったかを2,3日かけてひも解いていく。そして最後にキャリアプランに落とし込む。キャリアにおけるスタンスとポータブルスキル、テクニカルスキルみたいな感じです。
人見:あとは一般的ではないかもしれませんが、僕たちの失敗について伝えることも重視しています。研修の中では綺麗な話や僕たちの成長について話を伝える一方で、こんな失敗をしてきたとか失敗からこういうことを学んできたということを伝えていました。会社で活躍する先輩社員の入江さんは自ら「講師をして伝えたい」と手を挙げてくれました。こういった主体的な動きというのもBEENOSならではと感じます。講師になってくれたほかの社員もぜひ話したい!という人ばかりでこういう空気感がBEENOSの特徴だと思います。

―受講者の反応はいかがだったでしょうか
人見:研修は全員で17人の新入社員に受けてもらっていて、総じて研修に満足しているというアンケート結果になりました。全体的には社員とのコミュニケーションや懇親の量も十分だったと感じてもらっています。次の新卒に受けてほしい研修などもアンケートを取っているので次回に活かしたいと考えています。研修の内容が大変好評で「こういった研修をしていることをもっと発信したほうがいい、入社前に知りたかった」と言われたことは素直に嬉しかったです。
研修には社内のトップランナーを総動員
―研修に関わる講師の社員はどんな方たちですか
人見:研修に関わっている社員は全員、事業の第一線で活躍しているプロフェッショナルです。当社のトップランナーを総動員して研修にあたっています。たとえば、事業理解の研修では各社の社長やディビジョンのトップが会社の説明や質疑応答にあたりました。スキル研修プログラムで財務諸表の読み方には執行役員でCFCOの松田さん、企画書の書き方は常務執行役員CBOの笠松さん、韓国事業責任者の柳さん、ロジカルシンキング研修は事業戦略推進室室長でCSOの三浦さん、笠松さん、執行役員でCHROの宮坂さんが担当されています。マインドセット研修とキャリアビジョン研修ではボードメンバー全員と配属の可能性のある部署の執行役員も参加しました。最終的な新規事業企画の研修ではメンターで各社のディビジョン長のほか、多くの幹部クラスが参加しました。プレゼンにはボードメンバーをはじめ、執行役員や社長クラスの方みなさんにご参加いただきました。プレゼンテーションと質疑応答を通じて、質問を想定した事前の準備が必要だということも分かってもらえたと思います。役員が一人の社会人として真剣に向き合うことで、新入社員も会社が本気で取り組んでいることを感じたのではないでしょうか。
―研修を終えての感想を教えてください
宮坂:BEENOSの事業は少し特殊なので、色々トライしていく中でどんどん変わっていっています。研修も同様にどんどん様々なチャレンジをして今まで変化してきました。今年の研修はその集大成となったと思います。ブラッシュアップできる余地はまだありますが、大枠のフレーム部分は今後も活用していける形に仕上がりました。
人見:そうですね。完璧とはまだ言えませんが、この研修を受けることによってしっかりと地に足を付けてやってくれるメンバーとして配属先やジョブローテーションや技術研修といった場面に向かわせてあげられたのではないかと思います。
宮坂:人事メンバーもそうとうの時間数を研修に注いでいます。人材採用も投資なので中途半端にやってもうまくいきません。なんとなく打席に立ってなんとなくするスイングではバットに球は当たりません。なんとなく失敗したら失敗の原因も良くわからない。どうせやるなら前のめりにフルスイングするべきなんです。僕たちは本気で事業を作りに行っているので、人材も本気で採用しなくてはいけません。本気の姿勢を見せれば若い人もそこに応えてくれるので、本気で取り組むことの重要性を改めて学びました。
―ありがとうございました。